• 「猫の手貸します」

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神戸市職員を定年退職され、
防災教育等に取り組む高橋正幸さんの話を聞く。
高橋さんは震災時、
まさに大災害の渦中における行政職員の立場を経験した。
小さい子から電話が入る。
「お父さんから臭いがしてます。早く何とかしてください」
棺に入るご遺体を保存するためのドライアイスがない。
遺族、それもまだ小さい子には、あまりにも残酷な事態。
しかしなすすべもなく、涙を流すしかなかった、という。
今の若い職員が「30の遺体が…」と言うと、
すかさず高橋さんは、その職員に向けて
「一人ひとりを思い浮かべてみろ!」
と罵倒するという。
人の命を数字で考えることを許さないのは、
過酷な震災を最前線で経験したからでもある。
高橋さんは、震災について
確定的な物言いをする人の言葉に
警鐘を鳴らしてもいる。
やはり経験から、
マニュアル通りにはいかない、
想定通りにはいかない、
ということを肌で感じているのだ。
こうした経験をまとめ、
「T-メソッド」として研修用に提供している。
高橋さんとは夜の懇親会もご一緒した。
今も当時を思い出すという。
いわゆるPTSDの症状がしばしば出るそうだ。
些細なミスをしたが、
タイムリミットで事業を遂行するため受付を開始したところ、
100人にも上る人たちに囲まれた。
怒号が飛び交う中、
次々に同僚職員が限界を迎え、抜けていく。
毎朝、仕事にいくことの辛さを噛み締める壮絶な想いをした。
私たちは行政職員にも人間の心を持つ、
ということを忘れてはならない。
そしてその行政職員は災害時には、
見返りを求めず、身を挺して
公に尽くす存在であるということだ。
経験者の言葉は重く、
被災経験をした現場の空気は真実を物語る。
都市大災害における
危機管理の要蹄に触れる機会となった。