• 「猫の手貸します」

自転車街宣に出たときの出来事。
自分がもし、通行人として、通行中に
自転車にのぼり旗を立てて走っている人を見たら、
確かに不思議な目で見てしまうだろうなあ、
という気持ちの葛藤を抱えつつ、
しかし、まじめに市政改革を訴えるツーリング。
つまり決して楽しくてやっているというよりは、
やむにやまれぬ気持が後押ししている、
というのが正確であったりする。
で、その日。
ツーリングに出て、しばらくたった時。
比較的車通りのあるみちを右折し、
ある路地に入った。
杖を突く御老人がやや向かって右側に立っていた。
「お騒がせします」
そんな声をかけるや否や、
明らかに手のひらのパーを私に向けて、
自転車でゆっくりと走る私を静止している。
「あー何か迷惑かけてしまったかなあ…」
以前。
このようなスタイルである店に入ったら、
「お前のようなやつは出て行け!」
と大声で怒鳴られたことがある。
この御老人にも、
同様のことを言われるのかと覚悟を決めた。
近くに行って自転車を降りる。
御老人は何事かを言っている。
「60年前にもあんたに似た人がいたよ」
最初はよくわからなかったが、
怒られているわけではないようだ。
御老人は立て続けに、堰を切ったように言った。
「おはようおじさん、って言われてたねえ、その人は」
「旗を持っておはようって挨拶してたんだよ。60年前に」
う~む…
この私が60年前の再来…
その御仁「おはようおじさん」に思いを馳せて、
再びペダルを踏みだす自分が、そこにいました。