V 質の高い実のある国づくり ―質実国家を目指して 1 環境と調和した簡素な生活 人類の歴史は、自然破壊の歴史でもある。特に二十世紀に入ってからの大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済社会は、物質的に豊かな社会を先進国において実現する一方で地球環境と人類の生存に深刻な危機をもたらしている。また、物質万能主義によって、思いやり、謙虚な心、深い感動、家族愛、人間の絆などがすり減らされつつある。 世界人口が五十五億人を突破し、人類が地球の有限な環境といかに調和して生きていくかが、世界的に強く問われている今日、われわれは環境と調和した質の高い簡素な生活を実現するため、省資源・資源循環型社会の構築に全力で取り組む必要がある。 このため、省エネルギーやリサイクルの定着、新エネルギーの開発普及に積極的に取り組むとともに、環境教育や環境に関心を持つ消費者の育成、地方自治体が行う環境保全型地域づくり活動の支援、市民団体、NGOやボランティアによる環境保全活動等の支援、環境保全に関する事業を営む企業の振興等により、循環型の生活スタイルや環境保全型の産業社会の実現を図る。 2 日本経済の新しい道 わが国は、戦後五十年のほぼ全期間を通じて経済が成長する「右肩上がり経済」を経験してきた。しかし、世界二位の巨大な経済規模を持つようになった今日、これまでと同様な経済成長は、あらゆる面で困難になりつつある。特に近年、円高による産業の空洞化、アジア諸国の急激な経済成長、活況を取り戻しつつあるアメリカの経済など、わが国経済葉かつてない厳しい状況に直面している。 高齢化社会になっても日本経済が活力を維持し、実質的な国民生活の水準を持続的に向上していくためには、抜本的な経済構造の改革が不可欠である。 (1)公正な市場機能の発揮 わが国は、自由市場を経済の原則としているが、実際には各種の規制などにより、競争力の弱い産業分野への保護が続いている。そのために物流、建設、エネルギー、通信などの分野では国内競争が制約され、内外価格差の原因ともなっている。 健全な市場経済機能を発揮するために、生命・健康等への安全性の確保などの社会的規制を除き、需給調整などの経済的規制は原則的に廃止する。公正な自由競争を促進することにより、消費者の選択を通じて内外価格差を是正し、低コスト経済構造への変革を進める。また、新規参入者や消費者の立場に立って独占禁止政策の強化を図る。 (2)経済構造の転換 国際的に経済競争が激化している今日、わが国が経済の発展を続けるためには、情報・通信など高付加価値産業への産業構造の転換が必要である。また、住宅、福祉、余暇、文化など生活関連、地球環境関連の分野についても、新しい需要が望める。 こうした新しい産業分野への進出を容易にし、雇用機会を拡大するため、参入障壁になっている規制を緩和し、企業家精神の発揚と人材育成、技術開発を積極的に支援する。ベンチャーキャピタルの育成、リスクマネー市場の創設、株式上場手続きの簡素化、技術開発投資への税制面の支援などを行う。 また、輸入の促進により貿易不均衡の是正を図るとともに、生産・消費の両面から内外価格差を是正する。公共料金への市場原理の導入に向けた環境整備、公共事業への一般競争入札制度の導入を促進し、公的分野における合理化を進める。 (3)中小企業の新しい役割 わが国の産業新時代は、主として企業家精神豊かな中小企業の積極的な役割によって切り開かれる。経済構造の転換に際しては、中小ベンチャー企業に対する積極的な支援を行わねばならない。一方で、対応力のない中小企業の立場も充分に考慮し、決め細かな施策を論じる。 (4)雇用機会の拡大と労働力移動の活性化 わが国の労働市場は、長期的には高齢化、少子化等の要因により、生産年齢人口の減少による労働力不足が予測されるものの、短期的には、規制緩和や産業の空洞化等により、一時的に多くの余剰労働力が生まれる可能性が高い。したがって、新しい産業の創出による雇用機会の拡大を図るとともに、労働力の移動を円滑化するため、公共職業安定所の機能の強化に加えて、民間の有料職業紹介事業を認め、職業訓練や就職情報の提供など労働力の高付加価値産業への移動を活性化する環境を整備する。 外国人労働者は、帰国後本国の経済発展に寄与できることを目標に、一定の厳格な基準を設けて、受け入れを容認し、労働条件、住居、健康の面でその人権を保障する。 (5)魅力ある農林水産業への脱皮 農林水産業の手段であるのみならず、いのちをつくる産業であり、われわれの生活文化を深め、環境を保全する産業である。また、世界人口の動向や地球環境の悪化から大規模な食糧不足の恐れもある。このため、農林水産業の持つ多面的な役割を重視し、特に、ガット・ウルグアイ・ラウンド農業合意を踏まえ、国際的にも対応できる力強い農林漁業への脱皮と環境と調和した持続的農業の展開を図る。 経営基盤を強化し、技術革新と意欲ある農業者の新規参入を促進させるため、農地の流動化と生産農地の転用規制を柱に、農地法、農業協同組合法等の見直しを含めて農林漁業の経営形態の近代化のための施策を推進する。 農林漁業と地域経済、農業生産基盤の一体的な整備、発展を図る。山林の管理等、国土環境保全事業を導入した中山間地域対策を進める。 (6)エネルギーの安定供給と安全確保 「地球の有限性」を厳しく認識し、省エネルギー型の産業構造や生活スタイルへの移行を一層促進する。政府や地方公共団体が率先して省資源、省エネルギーの態勢を整えるとともに、ゴミの有料化など、必要に応じてリサイクルを義務化する。 原子力エネルギーについては、安全管理と情報公開を徹底したうえで、代替エネルギーの開発までの過渡的エネルギー源として、適正な利用を図る。核燃料サイクルについては、安全性に加え、国際的な動向と核廃棄物の処理を含めた経済的合理性を踏まえて、慎重対処する。また、地震時の原子力発電所の安全性について、徹底的に再検証を行う。 (7)科学技術立国 地球環境の保全などの新しい問題は、現在の科学技術の課題でもある。わが国は、率先してこれらの課題に取り組み、積極的に人類の幸福のために貢献するとともに、これらの技術革新、研究開発によって新しい産業分野を切り開き、わが国の産業の空洞化を克服して、経済の活性化を図る。 このため、特にこれまで十分でなかった基礎研究分野に重点的に取り組むとともに、国民生活に密着した分野での研究開発を推進する。 また、若者の理工系離れに歯止めをかけ、科学技術を担う人材を確保するために、理工系教育の質問向上を図るとともに、大学研究者の処遇改善、研究施設や設備の整備充実、研究支援体制の整備など、省庁横断的に科学技術を振興する。 (8)金融自由化の推進 金融は産業の血液であり、金利の自由化や金融業体感の相互参入による競争の促進など、金融の自由化は着実に進めなければならない。 金融の自由化には、金融機関と預金者の自己責任原則に基づく自由な契約を促進する必要がある。このため、銀行、証券、保険など金融機関の経営情報の開示を徹底し、信用秩序の維持のために預金保険制度の改革や金融検査機能の充実を図る。 証券市場では、社債の発行促進などの規制を緩和するとともに、手数料の自由化を促進する。ベンチャー企業育成のための資本市場の整備を図る。 政府系金融機関は民間の質的補完に徹する観点から見直し、時代の役割を終えたものについては順次、縮小・統廃合を行う。 3 活力を生む福祉社会 急速に進行する少子・高齢化への対応など、わが国の福祉政策は立ち遅れ気味である。それによって、老後の不安に対する高水準の個人貯蓄や、出生率の低下など、社会の活力の低下を招き、経済のバランスにも悪影響をもたらしている。 このため、個人貯蓄に頼らなくてもすむよう福祉政策を充実し、老後や健康の不安を少なくすることが不可欠であり、高齢化社会に備えて育児休業制度や公的介護保険制度を充実させることが、わが国の経済や社会に活力を生み出す最大の必要条件である。 同時に、高齢者の貴重な体験や知恵を積極的に生かしていく社会づくりを進める必要がある。 (1)育児環境の整備 わが国の出生率の低下は、女性の就業率が高まる一方で、妊娠・出産・育児と職業の両立が困難という現実が、その大きな原因となっている。この両立を図るために、出産・育児期における就業条件の整備が急務である。 職場での労働は、賃金が支払われ、社会的にも評価されるが、育児や介護など家庭内での労働は、有用であっても賃金の対象とはならず、一般的に評価も低い。活力ある社会に転換するには、家庭での育児や介護の労働を経済的に評価することが重要である。そのために、育児や介護のための休業の有給化を図る。 また、縦割り行政の弊害から、女性の教育や福祉、健康など、女性に関する包括的な政策が欠けている。このため、女性の健康に関しては、母子保健に偏ることなく、「性と生殖に関する健康(リプロダクティブ・ヘルス)」の視点から、生涯にわたる女性の健康に関する総合的な政策を推進する。 (2)高齢化社会への先行投資 二十一世紀の本格的な高齢化社会の到来に備えて、「わが国は国民の老後の不安を取り除くため、高齢者福祉制度の充実、福祉施設など社会資本整備への先行投資に取り組まなければならない。老後の不安の第一は、「介護が必要になった時」の対応である。 このため、障害を生じた場合に、生活上必要な介護を施設内だけでなく、家庭でも誰もが受けられるよう公的介護保険制度の早期創設を図る。また、住宅と医療と介護を公的に保障することにより、老後に備えた過大な貯蓄を車椅子で移動できる街づくりなどに振り向ける。 投資不足、貯蓄過剰が日本の経常収支の慢性的な黒字の原因であることを認識し、膨大な個人貯蓄の活用による高齢化社会に備えた社会資本投資を促進することで、国際収支のアンバランスの縮小と円高の防止、経済の空洞化を防ぐ。 (3)ノーマライゼーションの促進 障害者の自立と社会参加を促進する。車椅子がすれ違える広い歩道の整備や住宅、道路などの段差をなくすバリアフリー化、駅や公共施設へのエレベーター、スロープの設置等の障害者が生活しやすい生活環境の整備を進める。 障害者の生活利便の向上と雇用機会の増大のために、補助危機等の技術開発の支援や障害者を雇用する企業に対する助成事業の充実を図る。 4 ゆとりある安全な生活空間 わが国は、自然に恵まれていながら、産業優先の国土利用により、人間がふれあえる自然はあまり残されていない。特に、戦後は、各地で無計画なまま都市が再建、拡大された結果、多くの年は交通など生活の利便、美観、環境、さらに防災の面からも問題が多い。 こうした生活空間の貧しさは、土地利用のまずさに起因している。より収益性、経済的利益を求めた無計画な土地利用が行われ、山村も都市も乱開発された結果が、豊かさを実感できず、ゆとりを感じることのできない生活空間を生み出している。このため、「計画なくして開発なし」の大原則を打ち立て、都市計画に基づいて緑や水辺の回復、都市の改造に取り組む必要がある。 同時に、空間整備とともに、住民自らの参加による文化的共同体としての都市づくりを進めることが重要である。 (1)都市の改造 わが国の都市は、欧米の都市に比べ、道路は狭く曲がりくねり、緑は少なく、災害に弱い。また、大都市では「通勤地獄」とも呼ばれる極端な職住遠隔都市となった。 このため、長期的視野にたって、実効性のある土地利用計画に基づき都市の改造に取り組む。また、公有地を拡大し、街に水と緑を大胆に取り入れ、公園などの公共空間の拡大を通じてトータルの居住空間を倍増することを目指すなど、高齢化と将来の災害に備えて、車椅子でも通れる広い道路と避難場所にもなる一定規模以上の森林公園を適切に配置する。あわせて、下水道、共同溝を整備し、電線の地下埋設、屋外広告物規制等により、都市景観の美化を図る。 長期的には都市の単位を最大でも人口百万から二百万程度となるように、巨大都市を緑地帯で分割し、それぞれが職住近接の都市として自己完結する都市の形成を目指す。 また、東京一極に集中しすぎている機能を分散し、バランスのとれた国土の形成と国家の危機管理を図るため、新たな政治首都の建設に取り組む。 (2)ゆとりある住宅 生活に必須の衣食住のうち、最も国民の不満が大きいのが住宅である。わが国は、約38万平方キロメートルの国土に1億2000万人が住んでいるが、国土の3%を住宅用に当てるなど、土地利用を計画的に行えば、十分な広さの住宅は供給可能である。 ゆとりある住宅を実現するには、持ち家だけではなく、優良な賃貸住宅の供給拡大不可欠である。そのため、宅地を長期に借りる定期借地権制度や土地所有者による優良な賃貸住宅の建設を支援する特定優良賃貸住宅制度を都市計画と連動して拡充する。 (3)災害に強い国土・防犯対策 土地利用、街づくり、防災計画等さまざまな角度から、あらゆる災害に対応できる国づくりを総合的に推進する。 同時に、大規模な災害にも迅速かつ的確に対応できる危機管理体制の整備を進める。特に、危機管理のための官邸機能の強化、地域防災計画の見直し、衛星通信などを活用した防災無線網の整備、広域対応体制の充実など総合的な災害対策を推進する。防災訓練等により国民の防災意識の啓発に努める。 また、広域化、悪質化する犯罪防止のため、銃器や薬物の取り締まりを強化し、捜査体制の充実を図る。 (4)高速交通網の整備と高度情報化 人やモノが動き、情報が交流することが、新しい価値を生み、文化を育て、活力を生み出してきた。こうした交流が生み出す新しい活力を、国土のすみずみまで豊かに享受するためには、東京に一極集中している経済的・文化的な流れを、日本全国に縦横に交流する多極型ネットワークに組み換えていく必要がある。 このため、交通網の整備にあたっては、陸・海・空の機関交通網の総合的・体系的整備という観点から、高速道路網、新幹線、幹線鉄道網、航空ネットワーク、港湾、新交通システム等の整備・促進を図る。 また、高度情報社会の実現に向けて、技術革新や国際動向を踏まえた情報通信基盤の整備を図るとともに、情報通信サービス産業の育成、行政の情報化、パソコン教室など情報活用教育の推進、地域情報化政策への支援など情報の活用を推進する。併せて、知的所有権や個人情報の保護、災害や犯罪からの安全性の確保など高度情報社会の健全な展開を図る。 5 新しい世紀と日本人 (1)自立心と責任感を備えた将来世代 二十一世紀は、地球と人類の運命を決定づける重大な世紀となるであろう。その中にあって、われわれ日本人は、かけがえのない役割をはたさなければならない。そのためには今から自立と責任の時代精神を備えた勇気ある将来世代の育成が求められている。 まず教育界に人材を集め、画一化した学力偏重の教育から、個性重視の教育への転換を進める。また、教育施設の充実、教育費負担の軽減など教育環境の整備を推進するとともに、学校、地域、家庭の連携のもとに、他人を思いやる心や助け合いの精神の醸成を図る。 さらに、長寿時代、国際化時代を心豊かにおくることができるよう、生涯を通じて学習できる場と機会の確保を図る。大学の活性化と地域に密着した特色ある高等教育機関づくりを進め、国際人材交流と国際貢献の拠点、高等研究機関としての大学院の支援を強化する。 (2)この時代の文化を創ろう 有史以来、わが国は独自の文化を作り上げ、時には諸外国の文化を吸収融合して高い文化水準を築くにいたった。われわれは、わが国の過去の文化と伝統を尊重し、後世に伝えるために、有形無形の文化遺産の保存と継承に努めるとともに、諸外国とのさまざまな文化交流を通じて、日本文化に対する理解を深めていく。 また、他国の文化をより深く理解することが、友好関係の基本であることを認識し、海外での文化遺産の発掘調査や日本での紹介などの交流事業を積極的に推進していく。 一方、過去の文化に目を向けると同時に、われわれは「この文化」の創造にもっと力を入れる。災害に強い国土、美しい環境と簡素な生活、そして質の高い実のある国づくりを通じて、新しい独自の文化や文明の流れを創っていく。